バリウムは、主に漸近巨星分枝(AGB)星におけるs過程(遅い中性子捕獲)によって合成されます。バリウムはs過程の代表的な元素であり、これらの進化した星ではその存在量が著しく増加します。r過程(速い中性子捕獲)も、超新星や中性子星の合体などの激変的なイベントでバリウムの生成に寄与します。
バリウムの宇宙存在度は、水素の原子数に対して約4×10⁻¹⁰倍であり、宇宙では比較的希少な元素ですが、アンチモンや水銀よりはるかに豊富です。この適度な存在度は、バリウムが核安定性曲線上で有利な位置にあり、s過程が中程度の原子質量の元素を効率的に生成するためです。
中性バリウム(Ba I)とイオン化バリウム(Ba II)のスペクトル線は、特に近紫外線と可視光領域のBa II線が、星のスペクトルで容易に観測されます。バリウムは、星におけるs過程による元素濃縮の重要な指標です。「バリウム星」は、バリウムや他のs過程元素が異常に濃縮された冷たい巨星の特殊なクラスです。
これらのバリウム星の起源は長い間謎でした。現在では、これらの星は一般的に連星系であり、伴星がかつてs過程元素に富んだAGB星であった白色矮星であることが理解されています。過去のAGB星から現在見える星への質量移動により、後者がバリウムで濃縮されました。バリウム星の研究は、s過程の元素合成モデルと連星系の進化を制約するのに役立ちます。
バリウムの名前は、ギリシャ語のbarys(「重い」の意味)に由来し、その鉱石の高密度を指しています。バリウムの主な鉱石である重晶石(硫酸バリウム、BaSO₄)は、17世紀初頭から知られていました。1602年、ボローニャの靴職人であり錬金術師のヴィンチェンツォ・カシアローロは、ボローニャの重晶石を炭とともに加熱すると、光に曝された後暗闇で光るリン光物質が生成されることを発見しました。この「ボローニャの石」は、1世紀以上にわたりヨーロッパの学者を魅了しました。
1774年、スウェーデンの化学者カール・ヴィルヘルム・シェーレ(1742-1786)は、軟マンガン鉱中に新しい土類酸化物を区別し、重晶石が未知の元素を含むことを実証しました。同年、スウェーデンの鉱物学者ヨハン・ゴットリーブ・ガーンもこの酸化物を単離しました。しかし、バリウム金属の単離は、その極端な反応性のため非常に困難でした。
1808年になって、イギリスの化学者ハンフリー・デイビー(1778-1829)が、強力なボルタ電池を用いて湿った融解バリウム水酸化物の電気分解により、バリウム金属の単離に成功しました。この同じ年、デイビーは同様の方法でカルシウム、ストロンチウム、マグネシウムも単離し、アルカリ土類金属の化学に革命をもたらしました。
バリウムは、地殻中に平均約425 ppmの濃度で存在し、地球上で14番目に豊富な元素であり、炭素や硫黄よりも豊富です。主なバリウム鉱石は、約58.8%のバリウムを含む重晶石(BaSO₄)と、約69.6%のバリウムを含むウィザーライト(BaCO₃)ですが、後者ははるかに希少です。
世界の重晶石の生産量は年間約800万から900万トンです。中国が世界生産量の約35-40%を占め、次いでインド、モロッコ、カザフスタン、トルコ、アメリカが続きます。他の戦略的金属とは異なり、バリウムの生産は地理的に比較的多様です。
バリウム金属は年間約1万トンと比較的少量しか生産されず、主にバリウム酸化物のアルミノ熱還元によって生産されます。バリウムのほとんどの応用は、バリウム化合物、特に硫酸バリウムを直接使用し、金属の単離は必要ありません。バリウムのリサイクルは無視できる程度で、供給量の1%未満です。バリウムは一般的に分散型の応用に使用されるため、経済的に回収が不可能なためです。
バリウム(記号Ba、原子番号56)は、周期表の2族に属するアルカリ土類金属で、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ラジウムとともに分類されます。その原子は56個の陽子、通常82個の中性子(最も豊富な同位体 \(\,^{138}\mathrm{Ba}\))、および電子配置[Xe] 6s²の56個の電子を持ちます。
バリウムは、空気中で酸化物と窒化物の層を形成しながら急速に変色する、柔らかい銀白色の金属です。その密度は3.51 g/cm³で、「重い」金属としては比較的低いです。バリウムは室温で体心立方構造(BCC)で結晶化します。非常に柔らかい金属で、ナイフで切ることができ、適度な延性を持ちます。
バリウムは727 °C(1000 K)で融解し、1845 °C(2118 K)で沸騰します。電気と熱の優れた伝導体であり、金属の典型的な性質です。その電気伝導率は銅の約17分の1ですが、依然として高いです。バリウムは、安定元素の中でセシウムに次ぐ2番目に低いイオン化ポテンシャルを持ち、極端な化学反応性を説明しています。
バリウムは極めて反応性が高く、酸化を防ぐために鉱物油中または不活性ガス中で保存する必要があります。室温でも水と激しく反応し、水酸化バリウムと水素ガスを生成します。バリウムは湿った空気中で自然発火し、特徴的な淡い緑色の炎で燃えます。
バリウムの融点:1000 K(727 °C)。
バリウムの沸点:2118 K(1845 °C)。
バリウムは極端な化学反応性を持ち、湿った空気中で自然発火します。
| 同位体 / 記号 | 陽子 (Z) | 中性子 (N) | 原子質量 (u) | 天然存在比 | 半減期 / 安定性 | 崩壊 / 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| バリウム-130 — \(\,^{130}\mathrm{Ba}\,\) | 56 | 74 | 129.906321 u | ≈ 0.106 % | 安定 | バリウムの希少な安定同位体で、天然存在量の約0.1%を占めます。 |
| バリウム-132 — \(\,^{132}\mathrm{Ba}\,\) | 56 | 76 | 131.905061 u | ≈ 0.101 % | 安定 | 希少な安定同位体で、Ba-130よりやや豊富です。 |
| バリウム-134 — \(\,^{134}\mathrm{Ba}\,\) | 56 | 78 | 133.904508 u | ≈ 2.417 % | 安定 | バリウムの少量安定同位体で、全体の約2.4%を占めます。 |
| バリウム-135 — \(\,^{135}\mathrm{Ba}\,\) | 56 | 79 | 134.905689 u | ≈ 6.592 % | 安定 | 天然バリウムの約6.6%を占める安定同位体です。 |
| バリウム-136 — \(\,^{136}\mathrm{Ba}\,\) | 56 | 80 | 135.904576 u | ≈ 7.854 % | 安定 | 天然バリウムの約7.9%を占める安定同位体です。 |
| バリウム-137 — \(\,^{137}\mathrm{Ba}\,\) | 56 | 81 | 136.905827 u | ≈ 11.232 % | 安定 | 天然バリウムの約11.2%を占める安定同位体です。 |
| バリウム-138 — \(\,^{138}\mathrm{Ba}\,\) | 56 | 82 | 137.905247 u | ≈ 71.698 % | 安定 | バリウムの超優勢同位体で、天然存在量の71%以上を占めます。 |
| バリウム-140 — \(\,^{140}\mathrm{Ba}\,\) | 56 | 84 | 139.910605 u | 合成 | ≈ 12.75 日 | 放射性(β⁻)。重要な核分裂生成物で、核医学やトレーサーとして使用されます。 |
注:
電子殻:電子が原子核の周りにどのように配置されているか。
バリウムは56個の電子を6つの電子殻に持ちます。その完全な電子配置は1s² 2s² 2p⁶ 3s² 3p⁶ 3d¹⁰ 4s² 4p⁶ 4d¹⁰ 4f¹⁴ 5s² 5p⁶ 6s²、または簡略化して[Xe] 6s²です。この配置はK(2) L(8) M(18) N(18) O(18) P(2)とも表記できます。
K殻 (n=1):1s軌道に2個の電子を含みます。この内殻は完全で非常に安定です。
L殻 (n=2):2s² 2p⁶に8個の電子を含みます。この殻も完全で、ネオンの貴ガス配置を形成します。
M殻 (n=3):3s² 3p⁶ 3d¹⁰に18個の電子を含みます。この完全な殻は電子遮蔽に寄与します。
N殻 (n=4):4s² 4p⁶ 4d¹⁰に18個の電子を含みます。この殻は安定で完全な構造を形成します。
O殻 (n=5):5s² 5p⁶ 4f¹⁴に18個の電子を含みます。完全な4f軌道は特に安定です。
P殻 (n=6):6s²軌道に2個の電子を含みます。これらの2個の電子がバリウムの価電子です。
バリウムは2個の価電子を持ちます:6s²の2個の電子です。バリウムのほぼ唯一の酸化状態は+2で、バリウムは2個の6s²電子を失い、キセノンと等電子のBa²⁺イオンを形成します。この貴ガスの安定な電子配置が、バリウムの化学が+2状態で完全に支配される理由を説明します。
+2状態は、酸化バリウム(BaO)、水酸化バリウム(Ba(OH)₂)、硫酸バリウム(BaSO₄)、炭酸バリウム(BaCO₃)、塩化バリウム(BaCl₂)など、ほとんどすべてのバリウム化合物に現れます。バリウム金属は酸化状態0に対応しますが、バリウムが酸化しやすいため非常に希少です。
実験室の極端な条件下で、酸化状態+1のバリウム化合物が合成されていますが、これらの化合物は極めて不安定で実用的な意味はありません。したがって、バリウムの化学は本質的にBa²⁺イオンの化学です。
バリウムは最も反応性の高い金属の一つです。空気中では、酸化バリウム(BaO)と窒化バリウム(Ba₃N₂)の層を形成しながらすぐに変色します:2Ba + O₂ → 2BaOおよび3Ba + N₂ → Ba₃N₂。この保護層はさらなる酸化を部分的に遅らせますが、反応を完全に止めることはありません。高温では、バリウムは空気中で激しく燃え、特徴的な淡い緑色の炎を上げます。
バリウムは室温で水と激しく反応し、水酸化バリウムと水素ガスを生成します:Ba + 2H₂O → Ba(OH)₂ + H₂↑。この反応は発熱反応で、放出された水素を点火するのに十分なエネルギーがあります。生成された水酸化バリウムは強い可溶性塩基で、高アルカリ性(pH > 13)の溶液を作ります。
バリウムはハロゲンと反応してハロゲン化物を形成します:Ba + Cl₂ → BaCl₂。また、硫黄と反応して硫化バリウム(BaS)を形成し、高温で水素と反応して水素化バリウム(BaH₂)を形成します。バリウムは希釈された酸にも溶け、水素を放出します:Ba + 2HCl → BaCl₂ + H₂↑。
硫酸バリウム(BaSO₄)は注目すべき性質を持ちます:水に対する極めて低い溶解度(20 °Cで0.00022 g/100 mL)のため、他の可溶性バリウム化合物の高い毒性にもかかわらず、無毒です。この例外的な不溶性が、硫酸バリウムを放射線学的コントラスト剤として医療使用する基礎となっています。
バリウムの主要な応用は、世界の重晶石消費量の約75-80%を占める石油およびガス掘削用の掘削流体です。粉砕された重晶石(天然硫酸バリウム、BaSO₄)は、掘削泥水に添加され、その密度を高め、深井戸における地層圧力を制御します。
掘削流体は、地質学的地層の圧力をバランスさせ、制御不能な噴出(ブローオUT)を防ぎながら井戸の安定性を維持する必要があります。重晶石は、高密度(4.5 g/cm³)、優れた化学的不活性、相対的な無毒性、および適度なコストを兼ね備えているため、この応用に理想的です。典型的な海上油井は、1000から3000トンの重晶石を消費します。
掘削流体用の重晶石の需要は、石油価格と世界的な掘削活動に応じて大きく変動します。厳格な技術仕様では、高純度(>95% BaSO₄)の重晶石と制御された粒度分布が要求されます。石油産業は、世界のバリウム市場の主要な経済的推進力です。
超高純度の医薬用硫酸バリウム(BaSO₄)は、1世紀以上にわたり消化管の画像診断のための標準的な放射線コントラスト剤です。その優れたX線吸収能力と、水および体液に対する完全な不溶性により、理想的で安全なコントラスト剤となっています。
患者は、消化器系のX線またはCTスキャンの前に、硫酸バリウムの懸濁液を経口または直腸から投与されます。バリウムは消化管構造を不透明にし、腫瘍、潰瘍、閉塞、穿孔、およびその他の異常を検出することを可能にします。典型的な消化管X線撮影では、200-500グラムの硫酸バリウムが使用されます。
医療用硫酸バリウムは、有毒な可溶性バリウム化合物が存在しないことを保証するため、極めて厳格な純度基準(>99% BaSO₄)を満たす必要があります。ヨウ素系コントラスト剤などの代替品が一部の応用で登場していますが、硫酸バリウムは多くの消化器系検査に不可欠であり、世界のバリウム消費量の約2-3%を占めています。
可溶性バリウム化合物(塩化物、硝酸塩、水酸化物、炭酸塩)は高度に有毒です。可溶性バリウム塩の摂取は、重度の低カリウム血症(血中カリウムの低下)を引き起こし、重篤な心臓障害、筋肉麻痺、痙攣、および潜在的に死亡に至ります。塩化バリウムの成人に対する致死量は約1-2グラムです。
毒性の機序は、Ba²⁺イオンが筋肉および神経細胞のカリウムチャネルをブロックし、神経筋および心機能を重篤に障害することです。急性中毒の症状は数時間以内に現れます:嘔吐、下痢、腹痛、進行性の筋力低下、震え、不整脈、および呼吸困難。
一方、硫酸バリウム(BaSO₄)はその極端な不溶性のため無毒とされています。消化管を吸収されることなく通過し、完全に糞便中に排泄されるため、医療使用が安全です。しかし、硫酸バリウムでも微細な粉塵として吸入すると危険となり、慢性的に曝露された労働者にバリトーシス(肺塵症)を引き起こす可能性があります。
バリウムへの環境曝露は、主に採掘および化学産業からの産業排出によるものです。バリウムは土壌に中程度に蓄積し、採掘地域の地下水を汚染する可能性があります。飲料水基準は通常、長期的な心血管影響から保護するため、1-2 mg/Lの制限を設けています。